ずっと、しつこい風邪を引き摺ったままなのか、それとも、繰り返し何度も風邪をひいているのかよく分からない。なにせ喉が痛み、熱っぽく、節々が痛むのだがどれも軽症…そんな症状が今年に入ってからいったい何度目だろうか。
そんな諸症状を気力で振り払うかのように布団を撥ね退け、ことさら勢いをつけてカーテンと窓を開け、朝の光と空気を入れてみる。眩しいほどではないが、一応晴れ。ただし、吹き込む風は春のものとしてやや相応しくないほどに冷たい。
階下に降りてみると、リビングのテーブルの上に、袋に入ったままのトースト、ハム、チーズ、そして何故か、きゅうりが一本置いてある。どこにもそんなことは書いてないが、「勝手に食え!!」という明解なメッセージが、ひんやりとした空気の中をテロップのように横切った気がした。
我が家の宗旨は厳しい(ちなみに収支はもっと厳しい)。土曜の朝、家長たるもの自らの手で食事の支度をする事は固く禁じられている。およそ30分にわたり、戒律に背き自らトースターのスイッチをひねるべきか、このまま飢えに耐えるべきか懊悩した後、救世主が階段を下ってくる音が聞こえる。
ガチャリと、リビングの扉を押して舞い降りた坊主頭の救世主に開口一番、「おはよ。悪いけどパン焼いて」と言い、雄弁に佇む食材を指差す。「何載せるの??」と応える一分刈りに、「きゅうり…そのまま」と言えば、「じゃ、立てて…」と、無機的で全く面白くないジョークの応酬が続き、「で、ホントはなにを載せるの??」と、呆れと怒りの交じった目が言っている。
間もなく、リクエスト通りにハムとチーズを載せたトーストに、何故か紫色の野菜ジュースまで添えた朝飯がテーブルに並んだ。晴れて宗旨が守られたのはいいが、どうもサービスが良すぎるようで気味が悪い。
春の朝、気温はやや低め、晴れ、風邪気味、鶯のさえずり、ハムとチーズの載ったトースト、そしてハービー・ハンコックのCantaloupe Island…軽く気だるいムードから少しずつエンジンをかけ、午後に全開にもって行くタメには、なかなかのウォームアップタイムである。
午後から遊びに出かけるという坊ちゃんに、「朝飯代」代わりの小遣いを少しばかりくれてやろうかとつとめてさりげなく財布を手に取り、軽いため息。お札はおろか、デカい硬貨も見当たらない。不似合いに、キザな仕種を後悔した。まさかこの流れで¥300とちょっとを、「ほら…」とわたすわけにもいかない。
気は心である。


by RAM
原発に関すること(現時点での…